ウソビアの鼠 −マルチ商法の問題点とウソトーク −

                        by 柏木信一




【ねずみ講とマルチ商法の違い】


☆ねずみ講(無限連鎖講)

 金品または有価証券の配当を目的に2倍以上の仲間をピラミッド状に組織を作り、ねずみ算式に組織を拡大していくものです。仲間を作ること自体「無限連鎖講の防止に関する法律」で禁止されており、開設者、勧誘者に罰則が課されます。

☆マルチ商法(連鎖販売取引)

 商品・サービスの流通を目的に2倍以上のピラミッド状に組織を作り、ねずみ算式に組織を拡大していくものです。日本の法律では完全禁止とされていませんが、特定商取引法などの禁止行為に抵触すれば、勧誘者、会社本体両方に刑事罰・行政罰が科されます。

  →ねずみ講との違いは、商品流通が介在するか否かがカギです。



【特定商取引法に基づく「連鎖販売取引」の定義】


@ 物品の再販売、受託販売又はあっせん、役務の提供又は役務の提供のあっせん事業
A 再販売、受託販売又はあっせんする者を勧誘
B @又はAによって特定利益(小売利益以外の利益)を収受できる旨を以て勧誘
C 1円でも特定負担をすることが取引の条件となっている

●以上4つを満たすものを言い、業者が何と名乗ろうが、特定商取引法の連鎖販売取引の要件を満たせば、「マルチ商法」に該当します

●このことは、アムウェイー山岡裁判で「(当時の訪問販売法における)連鎖販売取引の要件を満たすものはマルチ商法である」という裁判所の見解が出ています(東京地判平成11年10月27日、判例時報1714-92)。

●「マルチまがい商法」という言葉はかつての訪問販売法の時代にあった「特定負担20,000円を以上の」という要件に当てはまらなかったものを指していました。しかし、現在の特定商取引法では1円でも特定負担が伴えば、Cの要件を満たしますので、「マルチまがい商法」の類は実質上ありません。

●良質なものと悪質なものを分けて「悪質なものをマルチ」と言う方もいます。しかし、法的要件は悪質であるか否かは関係ありません



【特定商取引法で禁止されている事項と義務】


○不当勧誘の禁止
○広告規制、メール・インターネット掲示板書き込み規制
○書面交付に関する規制、フォーマットに関する規制
○クーリング・オフに関する事項
○ブラインド勧誘の禁止
 (目的を隠して勧誘する事
  例「面白いイベントがあるんだけど」「今から飲みに行かない」
    と言ってマルチ商法の勧誘をする)

※この他、販売する商品によって薬事法、医師法など各種業法の
 規制を受けます。 ゆえに、それらに反する行為をした場合も併せて罰されます。


 

【マルチ商法はどこに問題があるか】


 マルチ商法の問題点は、次の点にあります。

@素人が素人を誘う

→マルチ商法の場合、勧誘する人はほとんど素人で商品知識や法知識のない人がほとんどです。しかも、これがピラミッド状に広げられますので被害もピラミッド状に広がってしまい
ます。

A目的が転移する

→商品の販売という商売の基本から外れ、商品販売ではなくピラミッドのメンバーを形成する事(と、その紹介料収入を得る事)が目的になってしまう点です。

 マーケティングの4P(マッカーシーの見解;マーケターが統制可能な要素で、戦略組み合わせ要素となる)には、製品、価格、経路、販売促進があります。製品と価格はメインで、経路と販売促進はメイン部分が確立されたことを前提に、それを促進する役割を持っているモノで、それが顧客満足実現に適っていなければなりません。つまり、製品のために経路があるのです。

 しかし、マルチ商法では経路(ここではピラミッド形成)拡大のために製品が介在するというのが実情で、やはり目的が転移してしまっています。
 
 また、「品質が良い」というものならば、何もマルチ方式でなくても、一般の流通ルートでも良いし、購入ポイントごとの割引付通信販売でも何ら構わないはずです。 

B「誰でも楽に儲かる」かのように勧誘し、実際とはかなり違っている

 →「売れず借金と在庫が残るだけ」ということが多く、学生や未成年者がその被害を受ける事もあります。


Cトップ、トップに近い層は何もせずとも、不労の所得が得られる

→これは、ピラミッドの下位の会員が商品を販売するか、新規加入者を連れてくれば、自分が実際に商品の販売をしなくとも、
(その枝葉の数)×(利得)が得られます。一般流通ならば主に「メーカー→問屋→小売商→消費者」というルートで商品は流通されます。

 しかし、マルチ商法の場合、中間業者を通さない「直販型」を採択しており、一応は「
メーカー消費者」の直販というシステムです。

 ところが、ディストリビューターと呼ばれるメンバーが赤の矢印の所にピラミッド状に連なっています。これは、一般流通以上に多段階(しかも不必要)です。ゆえに、直販流通だというのは形容矛盾だと言えます。




【一般流通と同じというのは「ガセビア」(=デタラメ)】


 上の続きですが、商品は本部から宅配便で消費者に配送されますし、ディストリビューターは単に子会員からの発注を電話などで本部に流しているだけです。一般流通ならば、問屋は集積と分散、小売商は消費者に近い位置で品揃え形成をするという形で商品の中継点になりますが、マルチ商法における中間者(=ディストリ ビューター)は、それらの役割を一切果たしていません。しかも、小売商や消費者が多段階になったり、小売店が新たに自分の傘下の小売店になるように勧誘するなどということは一般流通ではありません。

 商業経済学やマーケティング・チャネル論を学んでいる方ならば、マルチ商法のシステムが理論的におかしい事は分かるかと思います。しかし、基本的に素人はこの矛盾には気が付きません。そこで、MLM従事者はデタラメな商業理論やマーケティング理論を振り回して真っ当なシステムであるかのように勧誘してきます。これにまどわされないためにも、商業・流通の勉強が必要なのかも知れません。

 もっとも、マルチ商法は「マルチレベル・マーケティング」と呼ばれているにもかかわらず、商業やマーケティング・チャネルの問題として考察がなされた著書・研究論文は残念ながらありません(デタラメ本やヨイショ本は多いですが…)。これは私も取り組んでますが、今後の研鑽が必要ですね。




【マルチ商法はなぜ禁止されないの?】


 日本で「流通マルチ」を全面的に禁止できないのは「無店舗販売」の流通システムに類似して作られているため、これと見分けがつかないからです。なお、フランスと中国では目的如何問わず「倍々的ピラミッド・システム」自体が完全に禁止なので、ねずみ講もマルチ商法も全面的に禁止されています。



 私は、目的と手段が倒錯し、しかも人狩り的に人間関係をカネに変えることで見境なく勧誘が行われ、自浄作用も働かないピラミッド式システムは商品・サービスの介在の有無を問わず全面禁止すべきだと考えています。



「ピラミッドの下位にくると行き詰まるなんて、机上の空論だ」と言うけれど…


 ねずみ講でも、マルチ商法でもピラミッド式に2倍以上の仲間を増やす点は同じです。2倍以上の仲間を増やしていくと、1段目にいる人は1人、2段目は2人、3段目は4人…、と増やしていくと等比数列の一般項の公式を用いれば、27段目で日本の人口を超えます。また、加わっているメンバーの総和は等比数列の和の公式で求められます。合計人数は、1段から26段までを合計した時点で日本の人口を超えます。実際の計算は素手で行うと大変ですが、エクセルなどを使って求めれば簡単に出ます。

 このネタに限らず、マルチ肯定者が発言封じのためによく言うセリフです。それでは、「机上の空論でない論は何?」と問われれば誰も答えられていません。ねずみ講では、後から参加したピラミッドの下段のネズミが上段のネズミになるということはありません。しかし、マルチ商法では下段のネズミが上段に昇るということはあるようです。この事実があるから、「ピラミッド下位でも逆転があるし、上位者もノルマに達しなかったら剥奪されるから行き詰まることなんてないよ!」と言えるようにも見えます。 

 しかし、よく考えて下さい。1人が2人、2人が4人などといった形での
等比数列モデルは、「日本国民全員がねずみ講やマルチ商法に参加する」ということ前提に考えているものです。まず、都道府県・市町村でも日本全土でも、人口には赤ん坊や幼児も含まれています。赤ん坊や幼児がマルチ商法に参加することはないですよね。そこまで来れば、もう見境ないですよね…。ですから、彼らの数を引けばもっと少なくなりますし、大学新卒者や新生児出生数なんかでは追いつけません。それに、勧誘は自分の居住地域で展開することに限られています。なぜなら、1人で全国展開するということはコストもかかりますし、業者側でテリトリー拘束をしている所もあるため、現実的に不可能です。よって、メンバー勧誘リベートは微々たるものでこれをアテに収益を得ようなんてできませんね。

  更に、勧誘に行った相手が自分の展開するマルチに入ってくれるとは限りません。あるいは、「ヒビワレックス社なら、同社の人が来てもうすでに入っているよ」ということもありえますし、別の業者の会員だからと言って断られることもあり得ます。ゆえに、実際には断られることの方が多いのです。

  等比数列モデルを見ても破綻することは明らかですが、現実を考えればモデルの段階よりもっと早く破綻するということが分かりますね。




「○○のお墨付き」 権威のガセビア


 「早稲田大学、ハーバード大学のMBAでは必修」
 「一橋大学ではMLMを推進している」
 「医学博士○○氏が開発」
 「通産省も認めたMLM」

などの勧誘は、至る所で見られます。いずれもガセネタです。

「講義している=マルチを推奨」とか「禁止されてない=合法」というのも短絡的な帰結ですね。無店舗販売と見分けがつかない、政治的問題なと、禁止しようにも禁止できない諸事情も考えられます。

 また、大学の講義でMLMを推進しているものはありませんし、早稲田や一橋ではむしろ学生部通達で否定しています。私のように、消費者問題の現状を伝えるものとして、講義している者もいます。



マルチ商法の旨み? −ボーナスのトリック−


 マルチ商法のうま味は、販売利益以外のボーナス(=特定利益)です。業者は、これが得られる事を持って勧誘してきますが、加入者にとっては、これが得られなければマルチ商法を続ける意味がなくなります。

 でも、よく考えて下さい。一見魅力的に見えるボーナスは、本部やディストリビューターのポケットマネーから出されているものではありません。実は、他の客から吸い上げた金銭がぐるぐる回っているだけに過ぎないのです。ゆえに、本部は全く損をしないのです。